山本 千春|UI/UXデザイナー 造形屋の弟子からWebの世界へ。異色の経歴をいかしてデザインを生み出す

いま現在の仕事の内容や特徴を教えてください

 フリーランスでデザイン業務を中心に活動しており、WebサイトのデザインからWebサービスのUI/UXなどの案件に携わらせていただくことが多いです。
 今手がけているWebサービスのリニューアルプロジェクトは、ペルソナやジャーニーマップに基づいたデザイン提案など上流部分から携わっています。

 近年は市場的にもデザイナー業務の幅が広くなってきている印象で、どこからどこまでがデザイナーの役割で、自分の肩書きが果たして”デザイナー”で合っているのだろうかと思う瞬間はありますね(笑)

仕事をする上で大切にしていることを教えてください

 一番大事にしているのは、要望をヒアリングする段階でしっかりとデザインイメージをすり合わせることです。それが「なぜこのデザインにしたのか」という根拠にもなりますし、出戻りが少なくアウトプットに対する満足度も高まるというのが理由です。

 例えば「青色」ひとつ取っても、濃淡含めて青と言われる色はたくさんあり、クライアントがイメージしている青と、私がイメージする青が違う場合があります。
 そのギャップを極力無くすため、色のサンプル画像などを見比べながらクライアントがイメージする”青”を共有するというプロセスをはさみます。

 特に“デザインの目的”は最初に確認します。例えば「(クライアントが)作りたいものを作る」ことが目的なのか、「ユーザーのサイト内回遊率を上げる」ことが目的なのかでデザイン的アプローチは大きく変わります。
 前者であればクライアントが作りたいものを要望通りに仕上げることに徹底しますし、後者であれば目的から逆算したアウトプットを作成し、クライアントへ提案します。

これまでのキャリアサマリーを教えてください

 今でこそWebデザインを中心にフリーランスで活動していますが、実は新卒で内装業者に入社し、現場監督をしていたのがキャリアのスタートです。

 きっかけは、元々ものづくりが好きだったことと、学生時代に「人が作りたいものを作るお手伝いがしたい」という思いを持ったことです。
 とはいえ大学でデザインの基礎を学んでいたわけではなかったため、一番ものづくりに近い業界として内装業者を選びました。

 ただ配属は現場監督だったので実際自分が手を動かす機会がほとんどなく、求めているものとはギャップがあったため、実際働いていたのは半年程度です。
 プロジェクトマネジメント的な要素を多く学べる業務だったので、今だったら面白みを見出せるだろうなと思ったりします。

 内装業者を辞めた後は、派遣として営業事務として働くかたわら、イラストを学べる専門学校へ通っていました。
 イラストレーターを目指して通い始めた専門学校でしたが、粘土の授業を受けた時に立体の魅力にのめり込み、専門学校を修了した後は造形屋に弟子入りしました。

 造形屋とは、オブジェやフィギュア、あるいは小道具などとにかく造形にかかわるあらゆるものを作る仕事です。私が弟子入りしたアトリエでは、テレビ番組の人形劇で使う小道具などを作っていました。

 造形屋での業務は激務な上に造形に使う薬品の健康上のリスクなどもあって約1年ほどで辞めましたが、その後デザイナーとして仕事をする上でも生かされているたくさんのことを学べた貴重な経験でした。

 造形屋を辞めて以降はフリーランスでイラストレーターやデザイナーとして活動しています。

キャリア・チェンジのきっかけを教えてください

 デザイナーとしての転機は、とある会社のWebサイト制作の案件だったと思います。Webデザインはほとんど未経験ながらノーコードツールを使って構築までひととおり担当しました。
 その経験を通してWebサイト制作のノウハウも身についたおかげで、Webデザイナーとしてのスキルが広がるきっかけになりました。

 もう少し広い意味で、仕事に対する考え方のターニングポイントになったのは、造形屋の時に先輩からかけてもらった言葉です。
 造形屋は職人気質であることが正義とされる業界なので、興味が移り変わってひとつのことを極めることに苦手意識を持っていた自分は落ち込むことが多くて。
 そんな時に先輩から「幅広く興味を持てること自体がすごい」と声をかけてもらったことで「あ、これは長所なんだ」と気づくことができました。

 それがきっかけとなって、少しでも気になることができればなんでも挑戦してみようと考えるようになりました。
 デザイナーでも1mmの世界を極める職人気質の人はいますが、自分はそれよりも成果物に対し齟齬が起きないよう綿密なコミュニケーションを大切にしようという、自身のデザイナーとしての方針にも影響を与えていると思います。

 ここが言語化できていなければ、もしかしたら今でもがむしゃらに頑張って凹み続けていたかもしれないので、自分の得意不得意をキャリアの早い段階で気づけたのは大きかったと思います。

あなた独自の強みと、それが今の仕事にどう結びついているか教えてください

 デザイナーとして大事にしていることともつながりますが、細かく認識合わせをしながらデザインへ落とし込んでいくため、クライアントの期待値に合わせた成果物を作れる点だと思います。

 この認識合わせの方法も、もしかしたら造形屋での経験が血肉になっているのかもしれません。
 例えば「石を作ってください」という依頼を受けた場合、造形屋がまずするのは石に見える要素を洗い出すことです。色や形状、感触など、どんな要素が集まれば石っぽさが表現できるのかをまとめてから制作に取り掛かります。
 これをデザインへ応用することで、クライアントの中にある”〜っぽさ”を可視化して共有することができているんだと思います。

 あとは、コミュニケーションを重視していることの副産物といいますか、ありがたいことにクライアントから「働きやすい」という評価をもらえることが多い点も強みかなと思いますね。

これから成し遂げたい事、将来の夢を教えて下さい

 来月にも法人化しようと動いているので、チームづくりには取り組んでいきたいですね。1人でできることには限りがありますし、得意分野と不得意分野を分け合うことで対応できる幅を広げていきたいです。
 例えば私がクライアントのふわっとした要望を具体的にする部分を担い、実際手を動かすところは細部にこだわることができるデザイナーさんに入ってもらうことで、成果物のクオリティをより引き上げられるのではないかなと。

 とはいえフリーランスでやっているとデザイナー同士の横のつながりが中々なく、イベントなどで出会えるのは専門学校を出たばかりの方が多かったりするので、そういう方々を育てるスキームを作ろうかなとも考えています。

これからデザイナーとしてキャリアを形成していく方にアドバイスをお願いします

 アーティストとデザイナーの違いは意識した方が良いのかなと思います。アーティストは自分が作りたいものを作り、それを好きだと思う人に買ってもらうことで生計を立てます。
 一方のデザイナーは、自分ではない誰かの作りたいものをカタチにするお手伝いをする立場です。

 これはどちらが良くてどちらが悪いという話ではないので、自分が作りたいものが作りたいという気持ちが強い方はアーティストを、誰かのものづくりのお手伝いをしたい方はデザイナーの道を選ぶのが良いのではないかと思います。

 あとは、自分の強みへの理解と、その強みにフィットするクライアントを見つけることですかね。
 私自身は大手企業のようにカチッとしたフローの中で求められる成果物を作るよりも、スタートアップやベンチャー企業のように柔軟に動き方を変えられるクライアントの方が相性の良さを感じています。
 逆に相性のあまり良くないクライアントと仕事をすると本来のパフォーマンスを発揮しきれないことも多いです。その辺りを見極められるようになると、双方にとって良い結果につながるのではないでしょうか。

繋がりたい人や会社を教えてください

 チームとしてともに仕事をしたいと思う方は、クオリティにこだわった成果物を作れるデザイナーですかね。
 クライアントの要望からプロダクトの方向性へ落とし込む部分は私がするので、それ以降の手を動かしてものを生み出す部分に楽しみを見出せる方は相性が良いんじゃないかなと思います。

 クライアントという意味でいうと、何も固まっていないけどなんとなく作りたいものがあるという企業の方はぜひお声がけいただきたいですね。

最後に一言

 一緒にものづくりを楽しみましょう!